コラボレーション事例

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共に知恵を出し合って、これからの社会像を描く

アクセンチュア株式会社☓NPO法人ユースポート横濱

連日、求人数の減少など厳しい雇用情勢が報道されています。企業が新卒入社の社員に求める能力も年々高まり、それと同時に働きたくても働くことができない若者が多く出現する時代になっています。では果たしてこの問題は若者だけの問題なのでしょうか。若者は働く手前の課題を複数抱えており、その課題の多くは彼らの育ってきた環境が影響しています。そして、一度挫折をすると元のレールに戻ることが難しい社会の中で彼らは生きてきています。若者に寄り添いつつ、そうした社会の側の環境改善への働きかけを行っていくべきなのではないか、との問題意識から、NPO法人ユースポート横濱は誕生しました。そんなユースポート横濱さんの活動に共感し、全社を挙げたプログラムの一環で一緒に知恵を出し合ったり、若者の就労を応援するイベントを共同企画したりといった取り組みを行っているのが、アクセンチュア株式会社コーポレートシチズンシップ推進室「若年層の就業力強化チーム(Employability Team)」のみなさんです。今回はNPO法人ユースポート横濱代表理事の岩永牧人さん(写真右)と、アクセンチュアにて当チームの責任者を務める市川博久さん(写真中央)と、片山貴嗣さん(写真左)から、協働のきっかけやこれまでの1年間の歩みについてお話を伺いました。(聞き手:田中 多恵)

―聞き手:今回のお取組みはアクセンチュアさんのコーポレートシチズンシップのお取組みの一つとして始まったと伺いました。まずは、アクセンチュアさんのお取組みの全体像を教えて下さい。

―市川:アクセンチュアが全世界で取り組むコーポレートシチズンシップの中核テーマとして、「Skills to Succeed」が掲げられています。「Skills to Succeed」では、全世界で約25万人のスキル習得や教育などの場にたどり着けない方々を対象に、機会提供していくことを目的としています。そして、日本の固有性を踏まえて主に3つのテーマ領域にフォーカスをしていこうとの結論に至りました。その3つとは「グローバリゼーションを見据えた初等中等教育」「ダイバーシティの実現」、そして「若年層の就業力強化」です。それぞれ非営利セクターの団体と連携し、資金的な援助のみならず、社員の労働力=スキルと時間

の提供を通じて支援していこうという方針が示される中、私のような日常業務をおこなっているメンバーが、各テーマ領域ごとに責任者も兼務しており、本業と同様にコミットすることが大きな特色だと言えます。私自身もこの方針に共感し、「若年層の就業力強化」の責任者を務めたいと手を挙げ、昨年秋ごろに初めてユースポート横濱の皆さんと顔合わせを行ったというのが、一番最初の接点でした。

―聞き手:協働先の選定の基準というのは何かあったのでしょうか?

―市川:「「Skills to Succeed」の方向性と親和性のあるNPO、すなわちシナジーが出せるところを選定基準に挙げました。明確なビジョンが掲げられていて、定性的のみならず定量的な取り組みをしていることや、既にいろいろな助成を受けているところではなく我々との協働によって新たな価値を生み出そうとしていること等を重視していました。社員がプロボノとしてNPOの活動に携わるプログラムであったため、チャレンジングな取り組みをしようとしているところほど、協働することで社員が学ばせて頂く部分も大きくなると思いました。

―聞き手:昨年秋頃に初顔合わせで、本格的に協働がスタートしたと伺いましたが第一印象はどのようなものでしたか?

市川:自分と2歳しか違わない若い世代の方であることに親近感がわきましたね。そして、一緒に時間を過ごしていくうちに「立派な方だな」と思うようになりました。社会課題に立ち向かっていらっしゃるわけですから。協働するようになってまだ1年ですが、お互い深い話になったりして仕事の中では築きえないような人間関係を築けているような気がします。

―片山:たしか、初めてお目にかかったときにユースポート横濱さんの事業内容や取り組みの全体像を教えてもらった後、部屋の片隅に座っていた岩永さんから「結局アクセンチュアさんとの協働でどんなことができるんでしょうか?」という投げかけがありました。この言葉がガツンと直球で飛んできて、熱いな、と思った覚えがあります。

―岩永:私達の方も最初は正直、戸惑いがありました。寄付や助成のみのサポートではない、ということが何を意味しているのかわからず、「どこまでやって頂けるんだろう」という不安感が先に立っていました。でも市川さんの自己紹介で、自らの挫折経験をお話してくださったときに、「この人達には何でも言っていいんだな」と感じた覚えがあります。

―市川:岩永さんたちが取り組んでいらっしゃる社会的な課題は今の社会のゆがみを映し出していて、問題も一朝一夕にはいかないと思っています。中長期的に考え、アクションを決めていかなければならない。一方で私達の本業のビジネスでは本当に、毎日毎日短期勝負なんです。短期勝負ゆえに、身につけられるスキルもありますが、そうでないこともあります。そういう意味で、長期的な視座に立って一緒に考えさせてもらうことで私達にとっても得るモノが大きいのではないかとも思いました。ユースポート横濱さんと一緒にここまで1年間取り組んできたからこそ見えてきた課題もあります。あっという間でしたが、密度の濃い時間でした。

―岩永:アクセンチュアのチームメンバーのみなさんが、とにかく市川さんを慕っているんです。何かを進めるときに市川さん一人がやるのではなく、チームとして一緒に取り組んでくれているのが有難かったですね。

―聞き手:単なる寄付とは違って、「一緒に考えながら事業を進める」というところに、今回の協働の特徴があるように感じます。「プロボノ」の取り組みが広がる一方で、本業の業務との両立が難しいという声も聴きますがアクセンチュアさんでは、どのような位置づけで取り組まれていたのでしょうか。

―市川:「Skills to Succeed」の取り組みは、アクセンチュア社員がきちんと業務時間内にコミットすべきものと位置付けられています。プロボノの社員が投ずる時間のための予算が設けられているので、社員も全力でコミットしていますね。今年の7月24日には、「あなたの「働く」を考える1日」と題した若者向けのシンポジウムを開催し、200名程度の方々が参加するほど盛況でした。このイベントは企画段階から、当日運営までたくさんのスタッフが協力してくれました。この活動は、我々社員にとっても刺激的な時間だったようです。

そして、本来ならば、もっと本業そのものとして顕在化している社会問題に取り組むことができるような仕掛けが必要なのではないかと思います。一社員としての見解ですが、CSRとしてのコーポレートシチズンシップ活動に加えて、本業として社会課題の解決に直結するような新しい事業の立ち上げにも挑んでいきたいですね。そのためにも、現在おこなっているコーポレートシチズンシップの取り組みを通して、きちんとソーシャルインパクトを生み出していくことが重要だと思っています。

私達の会社では、新しい年度の取り組みを始めるまえに成果指標を決め、経営会議にてプレゼンテーションを行います。また期末には「社員が何人、どんな活動に参加したのか」、や「取り組んだことによるソーシャルインパクトはどの程度であったか」、それから協働のイベントの参加者数やプログラム受講人数、といった定量的な数字を報告することになっています。きちんと成果を出す事にこだわっている点も社員の高いモチベーションにつながっていると思います。

―聞き手:今後のユースポート横濱さんとのお取組みについて、計画していることがあれば教えてください。

―市川:一つはカリキュラムの最適化ですね、新たに必要なプログラムの開発を共にやらせて頂くというのがあります。短期集中型だったり、林間学校のようなコミュニケーションに重点を置いたものだったり、受益者がきちんと就労に結びつくための実践的なトレーニングを提供できればと思っています。あとはシンポジウムを開催したいね、という話題は出ています。全国各地で、若者の就労支援の問題は共通して起こっている問題であると思います。ユースポート横濱が実践したやり方をシェアして、全国各地のあらゆるNPOが同じような取り組みを推進することで、課題解決が推進されるといいなぁと思っています。

―聞き手:お話を伺っていると、NPOと企業という互いの組織を超え、互いに知恵を出し合い、一緒にこれからの打ち手を考えている、ということが伝わってきました。ユースポート横濱さんにとってアクセンチュアさんとの協働によって変わったことはありましたか?

―岩永:これまで行政や企業から補助金やご寄附を頂いて事業をすることはありましたが、その関係とはまた違った関わり方をしていただいていることが有難いです。私達には気づけない視点からの指摘や、戦略を一緒に考えて伴走してくださっていることで、最初は、「え。そんなことできるの」と思うようなことでも、一緒に考えているうちにだんだん麻痺してきて、「できるし、やろう」と思えてくるから不思議です。

―聞き手:最後にこれから協働を考える企業やNPOの方へのメッセージをお願いします。

―市川:今あらゆる分野でビジネスのコモディティ化が進んでいると思います。私達のビジネスも、スピード重視で勝つか負けるかのビジネスを続けてきて、勝ち続けてその先に何が残るのか。そのことに少しずつ気づき始めているビジネスマンも多いのではないでしょうか。これからは短期的なビジネスの成果のみを追求するのではなく、あらゆる人が活躍できる社会を創っていかなければいけないと思います。「生産性を上げることが大切だが、それに必要なのはモチベーションだ。モノが売れない、コストを下げる、賃金も下げる、購買意欲が下がる、ますますモノが売れない。こうした負のスパイラルから抜け出すには、従業員のモチベーションを上げ、生産性を高め、イノベーションを起こすしかない」、一橋大学のイノベーション研究センター長の米倉誠一郎先生もこのようにおっしゃっています。私達のビジネスと若者の問題は分断された問題ではなく、表裏一体であり、そんな状況に直面しているからこそ、これからは新しいマーケットを創って雇用を生む取り組みをしていかなければならない、と思います。

私の夢は日本にゴロゴロ転がっている社会課題を解決する新しい産業マーケットを作って、新しい雇用を生み出すことです。産業の空洞化の流れは止められない、だったら新しいビジネスを作るしかないと思います。例えば、日本が持っているノウハウや知恵を海外諸国へライセンス売りするようなことを模索していかなければいけない、その意味からも他者との協働や長期的な視座に立ったビジネスに取り組む意義は十分見出せると思っています。

―岩永: 一方NPO側はこれまでただ単に寄付してください、支援してください、ということでリソースを集めようとして来ていたという側面もあったのではないかと思います。これでは十分なリソースは集められないし、集まったとしてもうまく活用しきれない。ですから自分たちが社会課題を解決していく上で、真に困っていることや、どういう人達にお手伝いをして頂きたいのかという点を明らかにするところから始めてみたらよいと思います。そういう意味では、私達もまだまだですが成果をとにかく外に発信していくことも重要だと思います。よくNPOは発信力が弱い、とか言われますがもっと発信に力を注いでいくべきだと思っています。発信することで外部から評価され、そのことによって自分達の強みを再発見できることもありますから。

―聞き手:ありがとうございました。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
  

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