コラボレーション事例

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「仕事をシェアして自宅で働く」という新しいワークスタイルを広めたい

株式会社マックス・ヴァルト研究所×NPO法人I Loveつづき

横浜市ひとり親家庭等在宅就業支援事業」をご存じでしょうか?家庭で子どもと過ごす時間を大切にしながら、技術を身に着け、在宅での就労につなげることのできる10ヶ月間の訓練プログラムで20102月の募集開始から100名の訓練生がeラーニングや集合研修で技術習得に向け取り組んでいます。この事業を横浜市から受託しているのは、特定非営利活動法人I Loveつづき株式会社富士通ワイエフシー特定非営利活動法人 横浜コミュニティデザイン・ラボ株式会社マックス・ヴァルト研究所の4法人の構成団体から成る「ひとり親在宅就業支援センター横浜コンソシアム」です。今回はこのうち、特定非営利活動法人I Loveつづき代表理事の岩室晶子さん(写真右)と、株式会社マックス・ヴァルト研究所 代表取締役社長の横山雅子さん(写真左)から、協働のきっかけや今後の事業展開についてお話を伺いました。(聞き手:田中 多恵)

-聞き手:はじめにそれぞれの団体紹介と今回の事業に取り組むことになったきっかけについて教えていただけますか?

-岩室:私達I Loveつづきは、横浜市都筑区をフィールドの中心に横浜市域で、環境、防災、青少年支援、地域振興、などの分野でプロジェクトを推進するまちづくりNPOです。近年になって少しずつ行政からの委託事業を受けるようになり、責任ある仕事も増えていきました。それと同時に、地域で子育てをきっかけに仕事を辞めたママ達や、定年を機にビジネスの第一線を退いた方等、スキルを持った方が私達の活動に参画してくださるようになってきました。平成18年から横浜市経済局の「経済の新たな担い手創生事業」を受託する中で、「仕事をシェアしながら、自宅で働く」という新しいワークスタイルを広めたいと考えるようになりました。この「テレワーク」の分野で、札幌で先駆的に取り組んでいらっしゃったのが田澤由利さんという方です。今回、横山さんにお会いすることができたのも、田澤さんにご紹介頂いたことがきっかけです。

-横山:弊社は92年に立ち上げて以来、主にメーカーや情報通信系の大手企業をクライアントに、ビジネス一筋で事業を展開してきましたが、20年やってきて「何か社会や地域のためになるような新しい事業展開をしていきたい」と思うようになりました。そんなとき田澤さんとの雑談のなかからテレワーク事業のことを聞いたんです。ちょっとした衝撃でした。自分達が事業で培ってきた強みを活かせるし、そのうえで人のためになれるかもしれないと思ったのです。

即効、探してみると名古屋で同様のスキームでの事業募集があったので、すぐに名古屋に行きました。そこで、名古屋のNPOや企業の方々を探して、たくさんの方とお会いして、なんとか名古屋人脈を作り上げ、無事にコンソシアムを組みました。時間もない中での力技だったのですが、最強のコンソシアムが構築できたんですよ。しかしながら僅差で敗れてしまったんですね。今思うと、意気込んで、理想を追い過ぎていたような気がします。

だから横浜の事業を知った時に、今度こそ、という想いがありました。私たちにとっては今までにない挑戦です。利益があまりないとしても、従来の事業で会社を維持しつつこの事業に取り組み、新たな境地を見出せたらと考えていました。

実は、名古屋でコンソシアムを組むとき、最初から「NPOと組みたい」と思っていたんですよ。企業というのは、案外地域社会と離れているので、地域の情報に精通し、地域社会に根差しているNPOさんがいないと、こういう事業は絶対に無理だろうという直観がありましたから。

-聞き手:この出会いがI Loveつづきさんにとっても、マックス・ヴァルトさんにとっても大きな転機となる事業となったと思うのですが、今回の事業の肝である、コンソシアムの構成員や役割分担についての議論は、どのような形で進んでいったのでしょうか。

-横山:実際には、一番初めの顔合わせのミーティングでは、うまく方向性が見いだせずに終わってしまった感がありました。

今思えば目指しているものが違ったということなのでしょうが、大企業では「ビジネスになるのか?」という視点が重視されます。その土壌で議論が展開された部分があって、会話がかみ合いませんでした。そのときは非常に悲しかったです。

-岩室:私達としてもこれまでにないくらい大きな規模の事業だったので、私達NPOだけではとても信頼を得られないだろうということで、企業との協働は必要不可欠な要素だと考えていました。

私は最初の会合に同席していなかったので、初回の打ち合わせがうまくいかなかったという報告を受け、当時まだ、面識もなかった横山さんと電話やチャットで「どうしたら好いコンソシアムが組めるだろうか」ということを繰り返し話し合っていましたね。私は「タメ口で言い合えるコンソシアム」でなければうまくいかないと思っていました。お互いに遠慮があると後々やりにくいですからね。

-横山:だから役割分担については、「あうん」の呼吸ですぐにきまりましたね。

問題は「企画・提案」の内容。それについては、毎晩のようにチャットや電話でのやりとりを重ねました。企画書は名古屋での提案がありましたから、それを岩室さんに渡し、岩室さんが書いたものをたたき台にして、書き直したり追加したり。ほかの人も加えたメーリングリストでのやり取りだけで、あっという間に何百通?もう呆れるぐらいやりとりしました。

-岩室:プロポーザルの当日まで、予算計画について話し合ったり、原稿を書いてプレゼンの練習を重ねたりしていました。前日の夜に企画書の足りないところを見つけて、明け方までに書き直しました。必死でしたね。

プレゼン当日の朝に横山さんから「運がいい人ね」と言われたのを覚えています。

-横山:「「運」の良い人とそうでない人の分かれ道はそこなんですよ(笑)。運が味方してくれているときは、いつもならありえないラッキーや、どう考えても神様が味方してくれているとしか思えない「僥倖」(笑)みたいなことが起きるんです。そのときは、これはもう絶対に神様が味方してくれている、だから必ずうまくいくって確信してました。

その頃にはもうお互いをすごく信頼し合えていましたから、当然「タメ口」。得意分野と不得意分野がはっきりしていて、率直に相談し合って力を補えあえる関係が築けていたと思います。

-岩室:事業が本格的にスタートしてからここまで、大きなトラブルなく来られているのも、この信頼関係がベースになっていると思います。何かあれば、電話し合ったりメールで連絡とったり。

-聞き手:お話を伺っていると、「タメ口で言い合える関係性」という関係性を相互に築いていらっしゃることが伝わってきます。ところで、この事業の受託をきっかけに何かお互いの組織に変化はありましたか?

-岩室:私達I Loveつづきがコンソシアムの代表団体をやっているのですが、なにしろ金額が大きいので、会計とかもびくびくしながらやっています。

一方で、「仕事として責任を持って受ける」ということが組織に根付き、気づけばいろいろなスキルを持った人たちがI Loveつづきに集まってくれるようになりました。1級建築士の人や、大手IT企業で勤めていた経験を持つ人が管理部門を担ってくれていたり、ととても心強いです。事業を受けたことで、組織が成長するきっかけになったと思います。

-横山:I LoveつづきさんはNPOの中でも「プロ集団」なんです。一人ひとりが自律的に判断して、動いているんです。たとえば、研修時のお菓子や飲み物、子供達が遊ぶ遊具など、直接研修に関係のないところへの心配りまで、入念な準備を欠かさない。「どうしてこの人たちは、ビジネスではないのに、こんなに一生懸命になれるんだろう」と最初の頃は思いました。私達の業界では、休日に社員が一人稼働するのに○円かかる、という 「コスト」で考えてしまうんですよね。

会社というのは、役割がありそして会社という縛りがある。だから、そのコスト以上の仕事をしようということがモチベーションになっています。逆にいえば、会社という縛りの中だからこそ、みんなきちんと自分のやるべきことができるといっても良いでしょう。I Loveつづきさんはその縛りがないのに、皆さん自分の役割を理解し、自律的にこなしている、そういう意味で「プロのNPO集団」ですね。

最近、I Loveつづきさんの組織マネジメントに学んで、私も在宅ワークすることが多くなりました。以前は、自分が社長なんだから出社して仕事しないと社員のモチベーションが下がると、傲慢にも思っていたんです。でもこれって実は良くない「縛り」構造なんですよね。今は、社員のモチベーションが落ちるときは落ちるんだし、上がるときは勝手にあがるんだし、と思うようになって非常に気が楽。自宅のPCの方が効率よく進むな、というときは在宅で仕事するようになってきました。

個人的には服装の変化もありました。以前はスーツをビシっと着てアポイントにうかがうことが多かったのですが、最近はたとえクライアントの元に訪問するときであっても、ラフな格好をすることが多いです。自然体の方がいいんだな、って思えるようになってきたみたい。I Loveつづきさんと協働するようになってから、今までのビジネスの延長線上ではない、新しい自分のスタイルが見えてきたような気がします。

-聞き手:マックスヴァルトさんにとっても、大きな変化の契機となっていらっしゃるのですね。最後に、企業とNPOの協働のきっかけを探している皆様へのメッセージをいただけますか。

-横山:NPOと一口に言っても、いろいろありますよね。企業もそうです。やはり、「目の前の人を信頼できるか」ということに尽きるのだと思います。

先日、あるクライアントさんから「翻訳電話の社会実験を行いたい」という要望があったとき、この案件は、またNPOさんと組める一例になるぞ!と思いました。だから、即座に岩室さんに相談をしたんです。そうしたら岩室さんが、可能性のあるところにいろいろ働きかけてくれて、横浜市役所の共創推進室という部署の方を紹介してもらうことができました。それが呼び水となっていくつかの公共施設での社会実験が決まったんです。

私達企業サイドは、行政や国と対話するときも、どうもビジネスモードが入ってしまうところがあるのですが、「岩室さんがいる、NPOが中に入ると自然体でつながれる」ということを実感しましたね。

-岩室:これはNPOとして活動するうえで大切にしていることなのですが、私いつも協働する相手と成果目標をシェアすることにしているんですよ。たとえば市役所と協働するときは、担当の方に「○○さんって、今回の事業の成果は何だと思っていますか?」と対話するようにしています。一緒にやるからには事業の成果を分かち合いたいじゃないですか。行政の人たちだって、行政の目標というだけでなく、自分個人の成果目標も、もっているはず。私たちはその「ひと」と仕事しているんです。その意味ではマインドは同じでちゃんと話せばわかり合えると思っています。こういうことを率直に話し合うことで、お互いに何を目指していったらいいのかがわかるようになりますし、職員の方が異動したりポストが変わったりしても、何かがあったときに信頼して相談できる関係性になると思います。

-横山:これからどんどん企業がNPOの力を借りる側面は増えてくると思います。というか、企業側に、そうなっていってほしいと思います。NPOにはNPOの良さがあるし、企業だからこその良さもあります。NPOという立場だからこそできることがありますし、企業でなければ無理なこともある。

信頼して双方の強みを活かし、弱みは補いあえる関係性を築くことで、「企業対企業」ではなく「人対人」の仕事になっていくのだと思います。そういった協同の仕方で、従来できなかった仕事、ほかではできない実りのある仕事ができるようになっていけばと心から思います。

-聞き手:素敵なお話、ありがとうございました!

関連サイト:

テレワークセンター横浜:http://teleworkyokohama.jp/

特定非営利活動法人I Loveつづき:http://webtown-yokohama.com/ilt/?page_id=13/

株式会社マックス・ヴァルト研究所:http://maxwald.co.jp/

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