コラボレーション事例

一覧に戻る

子育て家庭を応援し、暮らしやすい社会を実現する

アサヒタクシー株式会社×NPO法人こども応援ネットワーク×NPO法人さくらザウルス

「子育てタクシー®」をご存知でしょうか?子育て家庭を応援するために、タクシー事業者と地域の子育て支援事業者が協働して、安全・安心な「移動」を提供することを目的に全国各地で行われている事業です。横浜市内においては5社のタクシー会社と5法人のNPO法人が協力して、子育てタクシー®を市内の広範囲で運行しています。

そのうちの横浜市都筑区と中区・西区・南区を中心とした地域をカバーしているのがアサヒタクシー株式会社とNPO法人こども応援ネットワーク(横浜市都筑区)、NPO法人さくらザウルス(横浜市南区)です。今回は、アサヒタクシー株式会社社長の藤井嘉一郎さん(写真左)、NPO法人こども応援ネットワーク理事長の佐藤洋子さん(写真中央)、NPO法人さくらザウルス理事兼事務局長の横田美和子さん(写真右)の三人に協働のきっかけから今後の展望までの詳しいお話を伺いました。

(聞き手:横浜市立大学 国際総合科学部 2年 菊島朋世、郡司孟)

聞き手:こんにちは、今日はよろしくお願いします。今日は、子育てタクシー事業のきっかけから今後の展望までの協働に関する詳しいお話をお伺いしたいと思います。まず、お伺いしたいのですがアサヒタクシーさんが創業以来大切にしてきたことは何ですか?

藤井さん:そうですね、当社の経営理念として二つの柱があります。一つは「和」を大切にというものです。今年の12月で創業60年になるのですが、私で3代目になりまして、祖父の代から和を大切にしようとやってきました。和というのは、「平和」の和であり、「調和」の和であったり、和やかであったり様々な意味がありますが、とにかくみんなで仲良く穏やかな気持ちでやっていこうというのがその理念です。安全・安心を提供する運送業で交通事故が一番あってはいけないので、穏やかな気持ちでいなければならないので、和を大切にしようとなったわけです。その証としては、あいさつをしっかりやって、事故を防止したり、お客様にしっかりサービスを提供したりしていこうというのをモットーにしています。もう一つは私の代になってから打ち出した「地域密着」です。地元で商売しているので、地元に愛される企業としてやっていこうという2本柱でやっています。

聞き手:ありがとうございます。そんな中、アサヒタクシーさんがこの子育てタクシー事業を始めたきっかけを教えてください。

藤井さん:子育てタクシー®というのは、㈳全国子育てタクシー協会というのがあり、全国的な動きなんですね。私が参画した時は全国で70社ほどでしたが、今はもう100社を超えています。共通の想いで、全国の地域に合った子育てタクシー事業を展開しています。いわゆる親子連れ、妊婦さんやあるいはお子さんの単独の移動時などにやさしいタクシーをやっていこうということが始まったきっかけです。もともと、当社としては平成17年頃から陣痛119番という出産を控えた妊婦さんに事前登録を行ってもらい、万が一の時に知識を持ったドライバーが応対するサービスをおこなったり、お子さんの送迎も多少やっていたりしたので下地はありました。横浜では、当初瀬谷区の三ツ境交通さんと地元のNPOのまんまの理事長の金子さんとが平成19年に始めたのが一番最初です。そして、金子さんに背中を押される形で僕らも地域のニーズに応えるために子育てタクシー事業の協働をNPOさんを紹介してもらって、始めることができました。

聞き手:ありがとうございます。NPOさん側としては、当初お話が合あった時にはどのように思われましたか?

横田さん:私達は、もともと子育て支援をベースに活動をしてきていました。近年、幼児虐待などの家庭の問題が話題になっていますが、子育て支援というのは決して歴史の古いものではないんです。ずっと、「子育てサポートシステム」という在宅の家庭を支援するサービスや、情報誌の作成を行ったりしてきました。その過程の中で、預かり場所や親子の交流拠点は徐々に増えつつあったのですが、子育てで大変な親子の「移動」を助けるサービスは不足していました。タクシーというのは、子育て世帯にとっては敷居の高い乗り物なんですね。でも、一番必要としていたりもする。今までは敷居が高い乗り物だと感じていたタクシー事業と提携すれば、さらなる子育て環境の改善につながり補いあえると考え、よこはま一万人子育てフォーラムで出会った金子さんからの紹介を受け、連携をスタートさせていくことになりました。具体的には、「子育てタクシー®」のことを、こどもがいる家庭やプレママ達に知ってもらう活動や、何か利用者とタクシー会社の間でトラブルがあったときのサポート等の部分で私達NPO法人がお手伝いし、連携を行っています。

佐藤さん:私達のこども応援ネットワークというNPO法人は、当初は障がいのある子供たちの支援を目的に立ち上げました、その後、障碍のある子どもたちだけでなく、すべての子供や子育て者にとって住みやすい環境を提供することを理念に事業を行ってきました。都筑区の港北ニュータウンはとても特徴的な地域で、子育て世帯にとって大変恵まれた環境が整えられています。このため転入者・転出者が多いのですが、一方で身寄りや地縁のない核家族が多く、何かあったときに母親だけで対処しなければならないという状況に置かれた家庭も多くあるのが現状です。タクシーに乗るときに、ベビーカーを積むことや、障がいのある子どもを乗せることに対して、嫌な顔をされたり理解のない言葉をかけられたり、ということなく、安心して利用できるというのが子育て世帯のママ達にとって大きな魅力となっています。

聞き手:協働してみて感じたことや変わったこと、一番良かったことを教えてください。

藤井さん:タクシー事業というのはお客様に移動というサービスを提供する、という言わば一方通行の事業なんですね。お客様から返ってくるとしても、クレーム位でした。しかし、今回NPOさんと協働するようになってアンケートを実施したら、かなり「助かった」とか「有難かった」という声が聴かれて、嬉しかったですね。

聞き手:子育てタクシー事業を始めるにあたって、乗務員さんから何か批判などは出ましたか?

藤井さん:当社の約2割の乗務員で取組んでいるサービスなので、大きな批判は無く逆にやりがいを感じてくれている乗務員も多いです。横田さんにブラッシュアップ研修をしていただいた時にいろいろな疑問や意見が拾えて、不安もだいぶ解消できたのではないかと思います。

横田さん:ブラッシュアップ研修というのは、子育て世帯の家庭についてやお産について等の理解を深めていただく研修のことです。子育てタクシー®に関わっている人数は現在30数名ですが、この方達すべてにこの研修を受講してもらいました。でも、アサヒタクシーさんはもともと理念が浸透しているから、研修がスムーズにいきましたよ。

佐藤さん:きちんと乗務員の皆さんに理解を深めていただいたことでさらに安心しましたし、子育てタクシー事業を、自信を持って紹介できるという一つの強みができましたよね。

聞き手:現状として、この連携事業に対する課題は何かありますか?

横田さん:お客さんの要求と事業者側の受け取りの間に食い違いはたまにありますね。例えば、お客様はインターホンを押してくれると思っていたのに、乗務員さんは数分で着くので外で待っていたという食い違いはありましたね。また、お子様だけの送迎の場合、家庭の事情やお母さんの状態を運転手の方が気づく機会があるのですが、そういった場合は、私たちが情報提供を受け、問題に対処するようにしています。

佐藤さん:もともとこの事業を始めるときからずっと目指していることでもあるのですが、障がい児をひとりで乗せることができるようになる、というのも一つの目標です。障がい  児をもつ親の送迎の負担はかなりあります。これまでにもアサヒタクシーさんとはいろいろ話し合ってきており、アサヒタクシーさんも決してNOではないのですが、障がいと一口にいってもいろいろな障がいがありますし、これからも取り組みを続けたいですね。

藤井さん:そうですね。私達も思いは同じです。最近、神奈川全体で推進しているユニバーサルデザインタクシーを2台導入しました。運賃は普通のタクシーと同じですが、ガソリン車の為ランニングコストが倍かかるので大幅に増やす事は難しいですが、あらゆる皆さんにタクシーを身近に感じていただけるように努力していきたいと思います。

聞き手:子育て事業に関する今後の展望を聞かせてください。

藤井さん:展望というか課題ですが、近距離輸送が中心の地域密着型サービスなので、タクシーを配車できる範囲が限定されてしまいます。ですので、少なくとも区に1社、パートナーして組める地域のタクシー事業者ほしいです。また、陣痛輸送に関しては緊急な対応を要するサービスなので、子育てタクシードライバーだけではなく全乗務員で取組む必要があるため会社として常にサービスレベルの維持、向上に取組む事が大事だと考えています。ともかく、この子育てタクシー®をより多くの方に知って頂くよう、サービス自体の認知を広めることも大切な活動だと感じています。

聞き手:最後に、これから協働を考える企業とNPOの方々にメッセージをお願いします。

藤井さん:まずは前向きに協働してみるということではないでしょうか。やる前はNPOさんに対して多大な負担ばかりをかけてしまうのではないか、と心配していました。しかし、実際に組んでみてその先入観とは全く異なり、NPOさんにとっても子育て環境の充実というビジョンに合致した活動の幅を広げることにつながっているということが実感でき、双方にとってメリットのある取組になったことが良かったです。

今回の場合は特にNPOの皆さんがパワフルで、信念を率直にぶつけてくれるので、協働しやすかったですね。

横田さん:アサヒタクシーさんと私達の間では、大事にしたいことがそんなにずれていなかったんです。また、NPOと企業の2社間だけの協力関係にはならず、広域的に複数のタクシー会社と複数のNPO法人が連携しあったプロジェクトであったことも功を奏し太たと思います。年に一度、みんなで集まっているのですが、お互いの地域の事例や取り組みから学べることや刺激が多いです。情報交換も中身が濃くなったり、新鮮味があったりもありますね。

藤井さん:どうやら㈳全国子育てタクシー協会の中でも横浜の取り組みはNPOさんとここまで強力にタッグを組んでいるという点で、特異なようなんです。いい意味でモデルとなるような事例を創っていければと思っています。今年の暮れには、横浜でもう1社タクシー事業者とNPOさんが加わる予定です。

聞き手:これから協働を考える企業やNPOに対して力強いメッセージをありがとうございました。なるほど、先入観を持たず機会があれば協働してみること、お互いに共感できることでつながることが大切なのですね。本日はありがとうございました。これでインタビューを終わらせていただきます。

▶この記事を紹介する


このページのトップへ