NPO訪問レポート

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【食】をテーマに女性の自己実現を全力で応援、サポートする

みんなのキッチン

現在、社会における女性の役割は単なる「子育て」や「家事」に留まらず、多方面で活躍できるようになってきました。しかし、自分の特技や技術を活かせるような活躍の場を求めても、まだまだそのような場所が少ないというのが現状です。そのような「私も活躍したい!」という自己実現を望む女性を全力でサポートするのが、横浜市都筑区にあるコミュニティスペース「みんなのキッチン」です。コミュニティ紙『みんなのキッチン』を発行する過程で得た地域住民とのつながりを最大限に活かし、【食】というテーマのもと、地元企業などとのコラボイベントを開催しながら女性が活躍できる場を提供しているのが、コミュニティスペース「みんなのキッチン」なのです。今回は、そんな「みんなのキッチン」を運営している有限会社有アンド長の代表取締役である有澤つあ子氏に、「みんなのキッチン」の“今まで”と“これから”についてのお話を伺ってきました。(聞き手:横浜市立大学 2年阿久津恵理・3年須田梓沙)

聞き手:まず始めに、コミュニティスペースを設けるきっかけにもなったコミュニティ紙「地域ダス」、「みんなのキッチン」についてのお話を伺ってもよろしいですか?

有澤:「みんなのキッチン」というコミュニティ紙の前身は、12年前の「地域ダス」という地域誌です。12年前というと、ニュータウンができつつあったこともあり、都筑区はとても活気のある街として注目されていたのですが、住人の中にもまちづくりや地域活動に積極的に参加する人が多い街でした。そのような人たちと話をする機会がある中で、ここでコミュニティ誌を発行して、そこにその人たちがどんどん登場するような、住んでいる人が中心となるようなコミュニティ誌があったらおもしろいものができるのではないか、というただそれだけの気持ちで「地域ダス」の発行を始めました。一応、編集の仕事の経験はあったのですが、地域誌を発行してそれからそれを地元の人たちに、自分たちで手元に届けるというのは初めてだったので、最初はとても苦労が多かったです。とりあえず、その頃の世帯数が約4万戸だったので、いきなり4万部を発行しようということで始まりました。しかし、自分たちの力のみで4万部というのは無理があったため、家族総出で配ってもらったり、臨時のアルバイトも雇いました。また、次第に資金も底をついてきてしまいました。第1回目の創刊号が経費70万かかったのに対して、広告売り上げが20万程しかとれないという、厳しい状況に陥ったのです。それでも、続けたいという一心で何とか2年目もやりましたが、もう発行を止めようかと何度も思いました。そんな中でも地道に取材だけは続け、3年目を迎えてなんとか落ち着くことができました。まあ、3年目もあまり落ち着いてなかったですけどね(笑)。

今日、ここまで続いたって言うのは、そのお金がない中でも必死に続けてきた取材があったからこそだと思っています。取材を通して人との繋がりなどが構築できましたし、そこから今にも繋がっているのだと感じています。このみんなのキッチンのという場所があるのも、その時取材した人からの協力があるからで、このときの苦しかった3年間の取材というのは、今の私たちの生命線になっているなあと思います。

地元の取材というと、やはり日常生活にいる女性の方を中心に取材をする機会が多かったのですが、そういった女性たちの声をたくさん拾う中で、都筑区が郊外だということもあり、子育てに専念している女性が割と多く、そういう女性たちの中にも、自己実現意欲を満たすような仕事をしたいという思いを沸々と抱いている人が多いということに私たちは気がつきました。そこで、もしよかったら私たちがこの人たちを応援していくような紙面にしていきたいな、というのを考えるようになったんです。

日本の女性の就業率がM字型を描くというのをご存知ですか?M字型というのは、まず20代に一気に多くの人が就業するのですが、子育てを始める時期になると辞めていきます。そこで、就業率が一度、谷のように下がるんです。そして落ち着くとまた仕事を始める、ということでM字型と言われています。私たちがコミュニティ紙を発行した約10年前、横浜市特にこの横浜北部地域は、日本でも有数の、世帯年収がそれなりに高い、いわゆる「プチ金持ち」と言われているような人たちが住んでいる地域で、専業主婦が多い地域と言われていたこともあり、とても顕著だったのです。そういった状況の下、女性の中で再度また働きたいという気持ちが強くあるんだなということを、取材を通して知りまして、そこから女性の仕事を応援する、ということを意識した紙面にしていこうという気持ちが出てきました。そういう中で、横浜市経済観光局(当時)や男女共同参画推進室などと一緒に協働で女性の再就職を支援していこう、ということになり、コミュニティ紙に毎回女性の求人情報を載せたり、年に1回は再就職応援フェスタというものを取り上げ、地元の企業さんに参加してもらって、就職したい・再就職したい女性と地元の企業をマッチングする、というイベントも開催していました。紙面が女性の仕事を応援するということになって、女性の起業家につても応援しようということで、こういう女性の起業家応援セミナーなんかも開催するようになったのです。

様々なイベントを開催する中で、私たちは紙面とイベント企画を連動させていこうということになり、発行している紙面がイベントの集客などに役立つように、紙面の取材と、イベントで地元の人の声を拾っていくというところに力を入れるようになりました。イベントを開催するごとにアンケートをして、またはその場で聞き取りなどをして、いろんな人たちの声を拾う中で、私たちは最初は再就職応援ということで、就業ということをメインに進めていたのですが、話を聞いていくと、実を言うとどこかに就職するより自分自身でやりたいわ、という声が結構あることに気がつきまして、その中でも特に多かったのが、子育て世代であり、それもあってか食への関心が非常に高いということがわかったのです。

聞き手:【食】というキーワードが出てきましたが、地域とのコミュニティづくりになぜ【食】というテーマを選んだのですか?

有澤:先ほども言ったとおり、子育て層世代が多かったせいか食への関心が高く、また子育てが一段落した50代60代の人の話を聞いてもやはり体にいいものを食べたい、【食】への関心がとても高いということに気がつきまして、これはもう、皆さんにもっと役に立つ楽しい場所を作るためには、思い切って【食】に絞り込んだ方がいいんじゃないか、という風に思ったんです。【食】というのは男女関わらず、誰の生活にもとても関わりが深いものですし、食べることは多くの人を楽しくさせ、食べることによって話がはずむということもありあます。食べることの力をもう少しこの地域の中で最大限に楽しめることをしていこうよ、ということでそれが今の「みんなのキッチン」という形になっています。

横浜市は実は、都市型農業がとても盛んなところなんです。現在、地産地消は難しい取り組みだと言われていますが、横浜はつくる人と食べる人がとても近くにいるといことで、地産地消にとても取り組みやすい地域なのでは、と言われています。さて、問題ですが、横浜には東京ドームにして何個分の農地が広がっているでしょうか?――正解は677個分。その横浜市の中でも、一番農家戸数が多いのがこの都筑区なのです。都筑区では農業が今も盛んに行われていて、とれたての野菜を食べられるとても恵まれた地域なんです。そしてその地域の近くには食を仕事にしたいという女性たちがたくさんいる、子どももたくさんいるということで、これらを合わせれば、ここならではの取り組みができるんじゃないかということで始めたのが、この「みんなのキッチン」だったのです。農家だけと合わせようということではないのですが、やはり特徴としてはそういったところを前に出した方が面白いんじゃないかな、ということで、地元でとれたものを地元の人たちが調理して、そして地元の人たちに食べてもらうことによって地域が活性化して、より地域が元気になっていく、といったことに取り組める場所になったらいいなあということで、「みんなのキッチン」を始めました。

聞き手:では、この「みんなのキッチン」を具体的にどのように使っているのか、教えていただけますか?

有澤:みんなのキッチンには、セミナールームと奥に厨房があります。使い方としては、まず食の仕事をしていきたい人がここでいろんなことに挑戦できるチャレンジキッチンという使い方が一つ。そして二つ目の使い方は、私達の呼びかけで集まった、有志の方たちに「調理チーム」ユニットを組んでいただき活躍していく「みんなのキッチン調理チーム」の活躍の場という使い方がひとつ。それから、企業さんたちに貸していく、レンタルキッチンという3つの使い方でこのみんなのキッチンは稼働しています。

私たちがつくった調理チームで、今最も人気があるのが「マドンナ調理チーム」と言って、60代の女性たちが集まって毎月1回ランチを開催しているのですが、これは私たちが発行している紙面で公募したんです。公募して全く知らない人たちが5,6人集まって、ランチをつくって、普通のレストランのように食べに来てもらって、それが毎回6,70食完売するという人気ランチになりました。60代の人たちに話を聞くと、60歳になってもこんな新しいことや新しい友達ができることにとても喜びを感じるということでした。

聞き手:都筑区に様々な分野の技術を持つ女性が多いとのことでしたが、そう感じたきっかけになるような印象的な出来事などはありましたか?

有澤:自宅で料理教室をしている人がすごく多いですね。私たちはハウススクウェア横浜というところで年に3回イベントをやっているのですが、お客さんの質問に対してかなり緻密な答え・解答をされる方が多いです。相当勉強して、自分の中に知識をたたき込んだというような回答をきちんと色々な質問に対して返してあげるという方がとても多いですね。

聞き手:ありがとうございます。先ほどのお話の中でもあったのですが、取材が人との繋がりを構築するということで、それによって地域とのネットワークを構築されたと思うのですが、そのうえで何か大変だったことなどはありますか?

有澤:今回のテーマにこの人、という取材の対象を探すのには割と時間をかけて探すのですが、必ず何らかの形で様々な情報を持っている人に振っていくんですね。「こういう人探してるから教えて!」、「誰か知っている人思いついたらまた教えて!」という風に、どんどん皆さんに頼んでいくんです。そうやっていくと必ずどこかから「あ、有澤さんこういう人探してた」「あたしこういう人ならちょっと思いついたんだけど」という連絡が来て、何とか毎回それを乗り切ってきたように思います。一度取材をすると、必ず自分たちのイベントのことなどを載せた紙面を送り続けるなどして、自分たちの事を忘れないようにしてもらい、そして大きなイベントがあるときに、その人にどこでどういう形で関わってもらうか考えていくと、割とつながりが色々と出てくるということがあるので、必ず自分たちが取材した人たちに対して、今後どのように関わっていくか考えるようにしています。

聞き手:ありがとうございます。今までは、「みんなのキッチン」の“今まで”を中心に伺ってきたんですけれども、“これから”についても少しお尋ねしたいと思います。今現在の主なターゲットが女性ということでしたが、今後男性をもっと巻き込もうといったような考えなどはございますか?

有澤:とてもあります(笑)!先程は省略してしまったのですが、今年トマト祭りというものをやっているのですが、そういうときには調理の担当などを男性の方にもお願いしますし、今年はミクニ横浜の料理長もガスパチョを作りに厨房に入ってくださって、皆さん料理する姿を一目見たいといことで色々と盛り上がりました。このように、様々な形で男性にもどんどん入ってきてもらいたいな、と思っています。

聞き手:この「みんなのキッチン」で参加者の皆さんが得られた技術や知識が、将来地域にどのように還元されて欲しいとお考えですか?

有澤:ここでやることを自分たちだけの楽しみにしないで、極力オープンに色んな人が参加でき、そしてその人たちがまた次の人に伝えていけるような形にしていければいいかな、と思っています。なので、自分たちだけ知り合いだけでやるのではなく、新しい人がどんどん入ってきて、若い人も入りやすくなってくるような、そういうところをやっていければいいな、という理想を持っています。

聞き手:なにか、地域に還元されたなあと思う事例などはありますか?

【有澤さん】んー、いっぱい食べて誰か太った人がいるかしら(笑)ここからデビューしていった、というと言い方が悪いかもしれませんが、最初にここから声をかけて講師をやり始めて、そのあとどんどんと色々なところに発展していった、という事例は何人かいますし、すっかり「みんなのキッチン」を置いて有名になっちゃったね、と言う人もいます。そういう風になっていくのはすごくいいなと思いますし、そこでどういうふうに還元されているって言うのは具体的にはわかりませんが、ここで人に伝えていくということを経験して、それから色んな人に伝わっていっているんじゃないかなあ、とは思います。

聞き手:ありがとうございます。最後の質問になってしまいますが、今後「みんなのキッチン」にはどのように成長していってほしいか、または今後どうしたいか、何か将来ビジョンはありますか?

有澤:まずはここを使っている人のネットワークと言いますか、ヨコのつながりをもっと充実させていって、使っている人たち同士でいろんな新たなイベントをやったり、何らかの新たな取り組みをできるようになっていくというのがまず1つです。また、外側にむけて同じようなことをやっている人たちが繋がっていって、ここを使っている人たちが違うところに活躍の場を広げていく、横浜では今、そういった様々なコミュニティビジネスやコミュニティカフェができつつあるようです。そういったところを繋いでいき、繋いでいった先で新たな活躍の場が生まれたり、繋がることによって新しい取り組みができていく、中と外のネットワークの充実、それができるようになればいいなと思っています。

聞き手:ありがとうございます。以上で質問を終わらせていただきます。

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