NPO訪問レポート

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仲町台に花開く、NPOと地域がつむいだ出会いの物語

多世代交流カフェ「いのちの木」

駅を降りると広がる美しい街路と、緑豊かな公園。

港北ニュータウンを代表するおしゃれな町のひとつである仲町台に、この夏すてきなコミュニティカフェがオープンしました。

手作りのパンとこだわりのコーヒーだけでなく、このカフェの魅力はたくさんの地域のみなさんが集まっていること。

手作りの本を作れる講座、地域の方が作ったアクセサリーの販売、地域の高齢者が集まるモノづくり教室なども開催しています。

”多世代交流カフェ”を目指す「いのちの木」の魅力はそこに集まる人にあるよう

です。

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仲町台の駅前から公園へと続く、ひときわ美しいメインストリートに”多世代交流カフェ”「いのちの木」はあります。

このカフェを運営しているのがNPO法人であることは、初めて訪れた方には意外に写るかもしれません。

そこには、カフェの開店へとつながるNPOと地域の方々との出会いの物語がありました。

カフェを運営するNPO法人五つのパンは、ここ仲町台で10年近く障がい者支援を行っています。

NPO法人五つのパンの理事の岩永敏朗さんが仲町台にやってきたのは19年前のこと。クリスチャンである岩永さんはその後ここ仲町台の教会に集うようになります。

そのときの岩永さんは商社で働くビジネスマンでした。忙しい日々の中で、自らがどう生きるべきかを考えていた岩永さん。

ある日、人生を大きく変える出会いが訪れます。

それは障がいを持った青年でした。はじめて障がいの問題に深く触れた岩永さんは、その青年たちが持つ生きづらさや苦悩に触れていきます。

ちょうど40歳。人生節目の年であった岩永さんは、この出会いに導かれるように、新たな道を歩み出したといいます。

会社をやめ、2002年に「五つのパン」が誕生し、ホームヘルパー事業を始めた岩永さん。ホームヘルパー事業のかたわら本づくりやデザインなどの事業をひとつひとつ進めていきます。ホームヘルパー事業のかたわら本づくりやデザインなどの事業をひとつひとつ進めていきます。

[苦悩の中で訪れる出会い]

しかし、ヘルパー事業の運営は順調なことばかりではなかったと岩永さん。

つらい時期や悩みの時期。そんな折々に必ず新しい出会いが訪れたのだと言います。

「障がい者支援のしごとの中ではつらいこともいろいろありました。もうやめてしまおうかと悩みあぐねる時期に出会ったのが美篶堂(みすずどう)さんだったのです。」

手作りの本やノートをつくる美篶堂とのコラボレーションは新たな可能性を導きました。

機械を使わずに、紙の良さを生かした暖かみのある本やノート。これらを障がい者の方々とつくること。

これがそこに集う人の絆をつなぎ、新しい場を作っていくことにつながりました。

この出会いがもたらしたものは、なにかの体験を媒介にして、場をつくることで、さらに人々をつなげることができるという新しい発見でした。

ここで、五つのパンが運営する「マローンおばさんの部屋」というもうひとつのコミュニティカフェに伺いました。

マローンおばさんの部屋は、五つのパンが3年前から運営している、仲町台にあるもうひとつのカフェスペース。

ちょうどお昼時、地域の奥様たちが楽しく談笑している風景が広がります。

そこでは障がい者の方がスタッフとして働いていました。しかしそれは言われなければわからないくらい、というより言われてもわからないかもしれません。

障がいを持つ人と、地域の人々がごく普通にともに集い、暮らしている社会がそこにはありました。

「障がいを持つ人や高齢の方々がここに集まって、手作りの本やノートをつくります。自分がつくったものを通じて社会と関われることがみなさんの喜びにつながっており、手作りという活動が媒介することで集まる人たちの会話もより弾んでいきます。

あの日の悩みの中で私はまた出会いを与えられたのだと思います。」

[「いのちの木」の誕生]

こうして地域の人たちが集うスペースができていきました。しかし岩永さんにはもう一つの思いがありました。人と人とのつながりが希薄化している世の中になっている。

世代が違えば、隣人であってもあまり関わりがない。多世代がもっと交流していくことはできないだろうか。

活動の中で、高齢者との接点が多くなっていた岩永さんは、そうした思いを強くしていきました。

「だれもが高齢になっていく。高齢になってから何もしなくていいと言われることほど淋しいものはない。人生の最後まで周りと関わって生きられる世の中でありたい」

そうした折、ここでも新たな出会いが訪れます。仲町台の駅からすぐのスペースにある雑貨店がその場所を引き継いでくれる人を探しているというのです。

ここを”多世代交流カフェ”にしよう。

こうして冒頭のカフェスペース「いのちの木」が誕生しました。

いのちの木では、先ほどの製本の教室のほかに、地元の方の作ったアクセサリーの販売、地域の高齢者が集まるモノづくり教室なども行っています。

そうした中でも最も可能性を感じていらっしゃる地域との連携活動が、最近始

まった地域のパン屋さんとのコラボレーション。

「仲町台のパン屋さん[ブルー・コーナー]と提携して、毎日できたてのパンを提供しています。コミュニティカフェであるいのちの木で、おいしいパンを売ることでお客さんにも喜んでいただけ、たくさんの世代の方にも興味をもっていただけるようになりました。」

「パンがあることで、ここに集う方々が手作りの本を作りながらの交流も深まります。」

NPO法人と地元のパン屋さん。一見異色の組み合わせは地域の人同士の会話も運んできたようです。

さらにいま岩永さんは地域の高齢者住宅に対して、マローンおばさんの部屋の障がい者たちと高齢者の買い物支援などを企画中。

障がい者の支援からはじまり、高齢者の支援、訪問介護の事業へ。地域の人々が支え合い絆をつむいでいく活動は一歩一歩、人との出会いに導かれるように進んでいます。

この日のインタビューは、11月の寒いある日、「いのちの木」で行われました。

インタビューのさなか、興味深く店内をのぞき込んでいる4歳くらいの男の子。

そしてそのおばあさまと思われる高齢者がお店に入り仲良くパンを買って行かれました。

岩永さんと町を歩くと、いのちの木に関わっている人や常連さんが次々と声をかけてくださいます。

町と人、人と人のつながりがひとつひとつ、いのちの木に花を咲かせていることを感じる瞬間でした。

最後にこのインタビューで最も印象的だった岩永さんの言葉です。

「小さい事に忠実な人は、大きい事にも忠実である」。聖書の言葉だそうです。

岩永さんの全身からあふれるお人柄と、すてきな笑顔の理由を見たような気がし

ました。

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